「気安く寿々に障んじゃねぇよッ!!」
「んッ!!」
痛むほどに掴まれていた拘束から、上半身をギュッと抱きしめられる拘束へと変わった。
しかも、仄かに自分と同じボディーソープの香りが鼻につき、一瞬で安心感へと変わる。
いつもなら『寿々さん』と口にする彼が、『寿々』と言った事さえ気にならない。
それ以上に、苦痛が安堵へと変った事に心底胸を撫で下ろす。
「今さらヨリを戻したいとか、虫が良すぎんじゃねぇの?」
「っ………そんな事、君に言われなくても重々承知してるよ」
「じゃあさ、寿々の気持ちは無視していいわけ?」
「ッ?!………」
「いい大人が婚約を破棄しただけでも倫理に反するのに、愛する女性を捨ててまで結婚を決意したのに、今さらそれを簡単に覆せると思ってんの?」
「………」
「言っとくけど、それだけじゃないからね?寿々から好きな仕事を奪って、両親の信頼も、友人との交友関係も滅茶苦茶にして………。彼女がそんな現実から逃げたくて、大事な命を捨てたくなるほど精神的に追い詰められた状況だったと、知っての行動なわけ?」
「………」
一颯くんのストレートすぎる言葉に、私も彼も言葉を失った。



