ライラックをあなたに…



「どこに住んでるんだ?」

「あなたには関係ないでしょ?」


ギュッと掴まれた手首がジンジンと熱を帯び始めた。


「痛いから離して」

「………ごめん」


キッと睨みを効かせると、渋々手を離した。


「話って、それだけ?」

「いや……」

「じゃあ、何?……仕事中なんだけど」


私は必死に取り繕って、嫌悪感を露わにした。

そうでもしないと、今にも膝から崩れてしまいそうで。



一度は心の底から愛して、自分の全てを捧げようと想えた人。

この人となら、どんな事があっても乗り越えられると疑わなかった。


いつでもどんな時でも傍にいて欲しくて、彼のどんな行動でも許せた筈なのに。

今は、視線を合わせる事すら苦痛でしかない。


店内の喧騒が嘘のように、私達の周りだけシャットアウトされている気がした。

どこか異次元に飛ばされてしまったみたいに。


彼は無言でじっと私を見下ろしている。

そんな彼の視線に耐えられず、私は足下に視線を落とした。



すると…………。