ライラックをあなたに…



「あっ、俺ちょっと電話してくるな?」

「おぅ~行ってこい行ってこ~い!」


襖付近にいた彼はジャケットのポケットから携帯を取り出し、腰を上げた。

そして、平静を装って私の手から日本酒の瓶を取り上げた。


「酒、ここに置いとくな?」

「おぅ~。富田さ~ん!悪いけど、それ取って~」

「あっ、はぁ~い!!」


日本酒を襖脇に置いた彼は、スッと何事も無かったように襖を閉めた。

そして、店内用のサンダルに足を掛けるように前屈みになった瞬間。


「ちょっと、話がしたい」

「…………」


襖の奥の人に聞こえない程度の声で耳打ちした。

そして、腕を掴まれた私は、店内奥のトイレ脇へを連れて行かれる。


「ちょっと、離して!」

「話がしたい」

「私は何も話す事なんて無い!!」


今にも震え出しそうな身体を必死で鼓舞する。

触れられている手首の圧迫感が堪らなく苦痛に感じた。


トイレ奥の通路の突き当り、仕込み場の扉の手前で停止した。


仕込み場の扉が半分開いていて、中を覗くと女将さんの姿は無い。

恐らく、先程のうどんを調理場で茹でているのだろう。


掴まれている腕を振り払おうとすると、