ライラックをあなたに…



「おい、鷹見~。さっきの子って、デザイン課の国末さんだったよな?」

「………あ、うん」

「結婚するって退職した筈なのに、新婚早々こんな所で普通……働くか?」



必死で掻き集めた勇気を一瞬で握り潰すような心無い言葉。


辞めたくて辞めた訳じゃ無い。

結婚だって、本当にする筈だった。

全く非の無い私が、どうしてここまで言われなきゃならないの?!


しかも、こんな所って?

この店は、『こんな所』呼ばわりされるような店じゃない!!


私は日本酒を握る手が、悔しくて震え出していた。


奥歯を噛みしめ、必死に怒りを堪えていると……。


「寿々ちゃん、どうかしたかい?」

「へ?あっ、女将さん」

「それ、追加注文かい?」

「あ、はい」


襖の前で躊躇している私に優しく微笑む女将さん。

私の意思とは関係なく、スッと襖を開けてしまった。


「失礼します。お待たせしました~」

「あ、すみませ~~ん」


先程と同じ、少し甲高くて苛つく坪井さんの声が帰って来た。

入口にそっと置いて帰ろうとすると、