ライラックをあなたに…



バチッと目が合ってしまったのは、リノベ課の坪井さん。

割と軽い感じの人で、噂好きでも有名な人だ。



そんな坪井さんの声でパッと手を引いた彼。

私はこれ見よがしに彼から離れ、大将のいる調理場へ向かおうとした。

すると、


「もしかして、国末さんって、この店の人と結婚したの?それとも、パートに出てるとか?結婚してパートに出るくらいなら、仕事を辞めなきゃ良かったのに~」

「ッ!!…………仕事中ですので」


私はその場から離れたくて、軽く会釈して調理場へと向かった。



「大将、女将さんからうどんを預かって来ました」

「おぅ、すまんな。そこに置いといてくれ」

「…………はい」

「ん?どうかしたか?」

「あっ、いえ、何でもありません」

「そうか?それじゃあ、悪いんだが、この日本酒を奥座敷に頼むよ」

「えっ?」

「宴会の間に置いてくるだけでいいから」

「……………はい」


忙しそうに魚を捌いてる大将に迷惑は掛けられない。

私は必死に笑顔を顔に貼り付け、日本酒を受取った。


はぁ……。

どうして人生ってこうも上手くいかないの?

私が何したっていうのよ……。



奥座敷の襖の前で深呼吸。

勇気を振り絞って襖に手を掛けようとした、その時!!