あぁ、そうか。
私の弱みを全て知っている彼は、同情の意味で秘密を1つ提供してくれたんだ。
何か凄く癪だけど、でも、また1つ『本間一颯』という人物を知る事が出来た。
彼は優しいだけでなく、将来もきちんと見据えている。
しかも、考えているだけの私と違い、確実に夢を現実にしてるんだ。
漸く歩き始めた私と違い、彼はしっかりとした目標を持ち、そしてそれに向かって進んでいる。
茜色に染まる夕日に照らされた彼の横顔。
私には眩し過ぎるほど輝いて見えた。
『源ちゃん』に到着した私達は、大将と女将さんに挨拶をすると。
「おしどり夫婦みたいだね」
「「えっ?!」」
思わず声が被ってしまった。
「一颯も寿々ちゃんも良い笑顔をしてるよ」
「………そうっすか?」
手慣れた手つきでビールサーバーの調子を確認し始めた一颯くん。
すると、そんな彼に近づいた大将が……。
「何か、良いことでもあったか?」
「えっ?………別に何もありませんよ」
「そうか?………お前、嘘が下手だからバレバレだぞ?」
「…………」
ちょっとムスッとした表情の一颯くん。
図星なのだろうか?
でも、いい事って、何だろう?
一颯くんを横目にお通し用の胡麻和えを小鉢に盛りつけ始めた。



