それに、彼のあんな砕けた表情を初めて見た。
いつもは爽やかな笑顔か、凛々しい表情、仕事の時の真剣な顏をしている彼しか私は知らない。
あんな愛嬌のある一面を知ってしまった私は、欲張りにももっと彼の事が知りたいと思ってしまった。
彼は高嶺の花だというのに……。
その日の夜。
彼に連れられ、隠れ家的な割烹料理屋へ。
そこは彼のご家族が馴染みにしているお店らしく、会社の人間は誰一人として、連れて来た事が無いという。
そんなプライベート的な大事な場所に、私が来ても良かったのだろうかと恐縮していると、彼は思いがけない一言を口にした。
「前から一度、国末さんをここへ連れて来たかったんだよね」
「えっ?」
旬の食材を活かした色とりどりのお料理が並ぶテーブルの向こう側で、頬杖をつきながら妖艶な表情で私を見つめる彼。
そんな彼の一言が脳内をぐるぐると駆け巡る。
「あの、それはどういう意味……ですか?」



