ライラックをあなたに…



思考が止まってしまったようで、頭がボーっとしているが、彼の声はしっかりと耳に届いている。



「フフッ、国末さんって可愛らしくて面白いんだね」


彼が目の前でにこやかに微笑み、口元にしなやかな指先を当てて笑いを堪えている。


そんな彼の仕草に見惚れていると、


「思い切り抓るから、頬が真っ赤になっちゃったよ?」


彼はそう呟くと、ジンジンと熱を帯びた私の頬にチュッと触れるだけのキスをした。



「今夜の食事、楽しみにしてるよ」


私の耳元で甘美な声音で囁くと、ニコッと愛らしい笑顔を置き土産にして、彼はその場を後にした。



なっ、何?

今、何が起きたの?!


頬に触れた彼の柔らかい唇の感触。

耳に残るチュッと乾いたリップ音。


一瞬の出来事で何が起きたのか、良く分からなかった。

彼の唇が触れた場所にそっと触れて。


身体中が熱を帯びたみたいに熱く、物凄い速さで騒ぎ出す鼓動。

爽やかなシトラスの香りが残り香となってその場に漂っていた。