ライラックをあなたに…



心臓に悪い。

安堵したばかりだというのに、再び緊張が走る。


大きく深呼吸してディスプレイに視線を落とすと……『父親』の二文字。


今度ばかりは観念したかのように溜息を零す。


厳格な父親がわざわざ電話を掛けて来る事なんて、滅多にない。

実家を出てから今日までの5年の間に、父親から掛かって来たのはこれが3回目。


それくらい貴重な電話だという事。


私は再び深呼吸して、電話に出た。



「はい、もしもし」

「………寿々か?」

「…………はい」

「………………話は鷹見さんから伺った」

「………そうですか」


父親の声に張りが無く、無駄に沈黙があるのが何よりの証拠。

相当我慢して話しているに違いない。


何かを言わなければならないのは解っているが、言葉が声にならず、電話を持つだけでやっとだった。


「………大丈夫なのか?」

「…………はい」

「………そうか」


心配で掛けて来たのだろうが、落ち着き過ぎている声音に違和感を覚える。

落胆を隠せないような、何とも複雑な声音が耳に届いた。