必死に取り繕って笑顔を見せる。
そんな事はきっと全てお見通しなんだろうけど、それでもなけなしのプライドがそうさせてしまう。
そんな私を見据え、
「分かった。でも、不安になったらいつでも言ってね」
「………うん。ありがと」
再び、ポンと頭の上に手を乗せ、優しく微笑む一颯くん。
決して無理強いせず、いつでも私の意思を尊重してくれる。
そんな彼にせめても気持ちを伝えたくて……。
「今日だけ、私が朝ご飯作るね」
「………分かった。じゃあ、ヨロシク♪」
「うん!」
肩をトントンと優しく叩かれ、私は再び調理を始めた。
玄関先で一颯くんに見送られ、私は会社へと向かった。
いつもより1時間も早く駅のホームに立つ。
見慣れた景色の筈なのに、何故か不思議な感覚に陥る。
……まるで初めて見るような、そんな景色。
大きな柱の陰に隠れるようにして、無意識に階段から下りて来るスーツ姿の男性をチェックしていた。
幸いの事に、あの人の姿は見当たらなかった。



