「アイツの……あの侑弥って人の元へは、戻らないで」
「へ?」
「寿々さんから乗り換えた女を捨てて戻って来たとしても、よりは戻さないと誓える?」
「………」
「答えられない?」
「あ、いや、違うの」
「………ん?」
「一颯くんの提案は勿論呑めるわ」
「じゃあ……」
「あの人が戻ってくるだなんて、考えもしなかったから……ちょっと戸惑っただけ」
「ホントにそれだけ?まだ未練があるんじゃないの?」
「………未練かどうかは正直解らない。ただ、少なくても私もこの5年で成長出来たから、憎んではいないかな」
「はぁ……。本当に寿々さんって、お人好し過ぎるよ」
「えっ?それ言うなら、一颯くんの方がお人好しだよ」
「俺?」
「うん、私みたいな曰く付き女を拾ったばかりに、もれなく住まわせる事になっちゃったんだよ?」
「フッ、そんな事?」
「そんな事って、大事な事だよ」
一颯くんは優しい笑みを浮かべながら、ハーブティーを口に含んだ。
「寿々さんがここに住むのが嫌になったら勝手に出て行くだろうし、それに……」
「………ん?」
一颯くんは再び口を噤んだ。
けれど、今度の彼は何やら様子が違う。
澄んでいた筈の瞳に妖しい光が再び宿った気がした。



