ライラックをあなたに…



「………さん、……………ずさん……」

「……んっ……」


肩を軽く揺すられ、瞼をゆっくりと開けると。


「……ん?……一颯くん?」

「こんな所で寝たら、風邪引くよ、寿々さん」

「……あっ」



通帳と睨めっこしていてあれこれ先の事を考えてたら、いつの間にか寝落ちしていたらしい。


手櫛でサッと髪型を整えると、一颯くんの視線がテーブルの上から壁の方へと移動した。

ん?

何かと思い、視線の先を追ってみると……。


「あっ!!……こっ、これは……」


私は慌てて通帳を鷲掴みし、後ろ手に隠した。


とは言え、御開帳とばかりに開いてあった通帳。

桁数が多ければ目を凝らしてみない事には残高が解り辛いが、最悪な事に残高は雀の涙ほど。


預金通帳は他にもあるのに、残高の1番少ないものが開かれていた。


今更、後悔しても遅いし、この先の事を考えると、彼には全て打ち明けた方がいいのかもしれない。


私があたふたとしている間に、彼はシャワーを浴びに行ってしまった。

……また、彼に気を遣わせてしまった。


浴室の方を眺めて、溜息が零れ出した。