洗面所からドライヤーの音が聞こえたのを合図に、俺はスープを温め直した。
暫くして、彼女が姿を現した。
「一颯くん、ドライヤーも勝手に借りちゃった」
「ん、いいよ、別に」
「フ~ン、何か凄くいい匂いね」
ふんわりとした長い髪を纏め上げ、白いTシャツにグレーのハーフパンツ姿の彼女は、鼻を利かせながらダイニングテーブルに歩み寄った。
「えっ?!もしかしなくても、一颯くんが作ってくれたんだよね?」
くりっとした黒目がちな瞳を更に大きくしながら、寿々さんはテーブルの上の料理を見回している。
「聞くのを忘れたんだけど、アレルギーとか嫌いな物とかあった?」
「ううん、特には無いけど……」
「そう、なら良かった。冷めちゃうから早く食べよ?」
「うっ……うん」
彼女が驚くのも無理はない。
決して小さくないダイニングテーブルに所狭しと料理が並んでいる。
……朝食だというのに。
女性に料理を振る舞う事自体ゼロに等しいのに、気落ちしている彼女を癒してあげたくて、出来る事を全て遣ろうとした結果がコレだ。
作っている時は夢中だったが、いざ食べるとなるとかなり抵抗がある。
………俺は何を遣ってるんだ。



