「それは俺が持つから、靴を何足か選んで」
「…………ん」
彼女が靴を入れる為の袋を取りに行った隙に、
「これ以上、彼女の人生をメチャクチャにしないで貰えますか?」
「なっ!!」
「結婚って、男にとったら一大事ですよね?それを簡単に白紙にしたあなたに、彼女は渡せません」
「ッ」
「どうぞ心置きなく、倖せになって下さい」
俺は嫌味も込めてそう口にした。
紙袋を持って戻って来た彼女は、必死に靴をそれに入れている。
そんなにも必死になるって事は、余程この男の事を愛していたのだろう。
だからこそ、今は姿を見るのも辛いのだと察し、俺は彼女の腕を掴んで立たせ、玄関のドアノブに手を掛けた。
「今までありがとう。………さようなら」
「寿々ッ!!」
背後から呼び止める声が聞こえても振り切るように歩き続けた。
そんな俺に彼女は無言で付いて来てくれた。
暫くして、緊張の糸が切れたのか……。
突然、彼女の瞳から大粒の雫が溢れ出す。
なのに、彼女は声も漏らさず、必死に堪えようとしていた。
そんな彼女があまりにも痛々しく思えた。



