ライラックをあなたに…



俺は腹の底から怒りを露わにした。



「彼女はあなたにとって必要のない雑巾かもしれないが、俺から見たら真綿のような優しく温かな女性だ」

「なっ、何が君に解ると言うんだ?!」

「分かりますよ。寿々さんは心優しい人だって」

「ッ?!」

「婚約を破棄したあなたを問い詰めたりせず、あなたを忘れようと必死だ」

「………」

「自分勝手な女なら、あなたの結婚相手の女性に怒りの矛先を向けるでしょうが、彼女はそうはしていない。寧ろ、あなたの前から消えようとしている」

「ッ」

「それがあなたへの最後の愛情だとは思いませんか?」



俺の言葉が相当効いたようで、下駄箱の棚に手を掛け、必死に堪えている。



俺が今日1日で悟った事。

彼女は自分の境遇を愚痴ったりせず、相手の女の事も納得している様子だった。



実際、どんな理由で別れる事に至ったのか、分からなくても……。

彼女がどんな女性かくらい、俺にだって解る。



この男の提案(別れ)を無条件で受け入れようとしている事くらい。




大きなボストンバッグを手にした彼女が姿を現した。