「寿々さん、ごめんね」
「ん?………何が?」
「何がって、………全部。ちょっとやり過ぎたよね」
今の彼は私の知る『本間一颯』だ。
口調も雰囲気もとても柔らかく、そして、温かい。
「謝らなくていいよ。むしろ、感謝してる」
「え?」
「私1人じゃどうにも出来なかったと思うから」
一颯くんはばつが悪そうに顔を歪めた。
彼にまた頼ってしまった。
見ず知らずの年上女の世話を嫌な顏一つせず。
こんな深夜に付き合せてしまって、私の方がばつが悪いよ。
どうやってこの恩を返そうか、私は頭を悩ませた。
「明日……って、もう今日だよね。大学あるの?」
「……ない。今日は自宅で論文を書く予定」
「…………そっか」
「寿々さん、これからどうする?ビジネスホテルにでも行く?」
「ん~、そうだね」
閑静な住宅街に再び靴音が響き渡る。
その音がやけに耳につくから、虚脱感に襲われた。
「ッ!!…………寿々……さん」
「…………」



