大きめのボストンバッグに着替えや化粧道具など、目についた必要な品々を素早く詰め込んだ。
玄関の方から何やら2人の会話が聞こえて来たが、今はそれを気にしている余裕は無い。
一先ず、貴重品などの大事な物の入れ忘れがないか確認し、私は自分の指先に視線を落とした。
これはやっぱり持って行けないよね。
私は深いため息を零しながら、左手薬指に納まる『恋人の証』をそっと外し、寝室のサイドテーブルの上にそれを置いた。
――――もう、ここには私の居場所はない。
最後に今一度、室内を見回して寝室を後にした。
愛を囁き合ったダブルベッド。
彼の為に料理したキッチン。
毎日美味しいと平らげてくれたダイニング。
夜風が気持ちいいと2人で晩酌したベランダ。
毎朝出勤する背中を見守った玄関。
どこを見回しても想い出だらけで涙が溢れそうになる。
私は奥歯を噛みしめて、玄関へと向かった。
私の姿に気付いた一颯くんが、



