ライラックをあなたに…



「何号室?」

「………807」


彼は私の手を引き、ゆっくりと歩く。

毎日通って見ていた筈の景色も今は違って見えた。



…805……806………807。

とうとう着いてしまった。


彼はドアの前で足を止め、振り返る。

そして、無言のまま私の手先をじっと見つめていた。



鞄の中から鍵を取り出すと、


ガチャッ――――――


「ッ?!」

「おかえり」

「………」



ドアの内側から、今1番逢いたくない人が姿を現した。


まさか、出て来るとは思っていなかった私は、彼の登場で思考が停止した。

鍵を持つ手が震え始め、瞬きをする事さえ忘れていた。


すると、


「そこ、退いてもらえます?」

「え?」

「玄関塞がれると入れないんですけど」



ドアの死角から姿を現した一颯くん。

侑弥さんに鋭い視線を向けていた。


初めて耳にした冷然たる口調。

『本間一颯』という人物から放たれた言葉とは思えないほど、嫌悪感を露わにしていた。



そんな彼を見上げると、