ライラックをあなたに…



「………2、3発ならビクともしないから」

「はっ?」

「まぁ、殴られる前に殴り倒すと思うけど?」



彼はそう言いながら、右手で拳を作って見せた。


それって、侑弥さんとバッティングしてしまった時の事を言ってるの?

ダメダメダメダメ!!

部外者に怪我なんてさせられない。

これ以上、迷惑を掛ける訳にはいかないんだから。



「玄関前まででいいからね?!」

「………」



思わず、言葉に熱がこもる。

なのに、何故、返答が無いの?


彼は私ではなく、ドアに視線を向けていた。

それはまるで、この先に何が起こるのかを予感しているような顔で。



内心、半狂乱になりながらも、いざとなったら彼を助けなければ……などと、変な所で冷静さを保っている自分がいた。



そして、私達の意思とは関係なく、エレベーターのドアはゆっくりと開かれた。


先に降りた彼が振り返り、スッと手を差し出した。


「ん」



………何故かは分からない。


あまりの優雅で自然な動きに吸い込まれたのかもしれない。

ううん、彼が纏う雰囲気に呑まれたのかもしれない。


私は無意識にその手を掴んでしまった。