ライラックをあなたに…



「ほら、行くよ?」

「へ?」

「寿々さんの家に」

「………」


深夜0時をとうに過ぎた住宅街に2人の靴音が木霊する。


手を繋ぐ訳でも無く、会話する訳でも無く。

無言でマンションへと歩き出した。


「場所、知らないよね?」

「ん、知らないね」


サラリと答える彼に思わず笑みが零れ出す。

だけど、今はそれが心地良かった。



「………ここだよ」

「へぇ、意外と近かったんだな」


自宅マンションの前まで来て見上げると、彼は不意にそう答えた。

………彼も同じ事を思ったらしい。

そんな他愛ない事に少し感動してしまった。



自宅がある8階へ向かうエレベーター内。

私は無言で階数表示を眺めていると、


「身体は頑丈だから心配しなくていいからね」

「えっ?」

「ほら、俺、樹木医補じゃん?」

「………だから?」

「樹木医なんて名前だけで、実際はガテン系の仕事だからさ」

「………?」


彼は一体、何が言いたいのだろう?

彼の言葉の意味が分からず、首を傾げると……。