「藤江さんっ……」
背後からの声に、ぴくりと肩が小さく跳ねる。
「よかったあ、追いついた」
「看護師さん……」
「廊下は走っちゃだめですよ! ……って、私も走っちゃいましたけど」
藤江さん走るの速いんですね、びっくりしちゃいました、と笑う看護師さんはさっき私が跳ね除けた人で。
怒っていても全然おかしくないはずなのに、その人はにこにこと幼く笑っていた。
「……何なんですか」
「藤江さん、最後まで話を聞いてくれなかったでしょう?」
「だって、あれ以上……」
聞けるわけがない。
あれ以上聞いて、私に何ひとついい知らせがないことはわかりきっている。
あるのはきっと、何よりも残酷な現実だけ。
そう、きっと。
拳をきつくきつく握って、溢れそうになるものをぐっと抑える。
「やっぱり。
勘違いしてるよ、藤江さん」
「……え?」
勘、違い……?
見つめると看護師さんは、ふわりと笑った。
「佐伯智さんは、ちゃんと生きていますよ」



