明日、あなたが目覚めたら




「藤江さんっ……」



背後からの声に、ぴくりと肩が小さく跳ねる。



「よかったあ、追いついた」


「看護師さん……」


「廊下は走っちゃだめですよ! ……って、私も走っちゃいましたけど」



藤江さん走るの速いんですね、びっくりしちゃいました、と笑う看護師さんはさっき私が跳ね除けた人で。


怒っていても全然おかしくないはずなのに、その人はにこにこと幼く笑っていた。



「……何なんですか」


「藤江さん、最後まで話を聞いてくれなかったでしょう?」


「だって、あれ以上……」



聞けるわけがない。

あれ以上聞いて、私に何ひとついい知らせがないことはわかりきっている。


あるのはきっと、何よりも残酷な現実だけ。

そう、きっと。


拳をきつくきつく握って、溢れそうになるものをぐっと抑える。



「やっぱり。
勘違いしてるよ、藤江さん」


「……え?」



勘、違い……?

見つめると看護師さんは、ふわりと笑った。




「佐伯智さんは、ちゃんと生きていますよ」