「っはあ、はっ……」
走る、逃げる。
遠く、もっと遠くへ。
誰から?何から?
……お母さんから?
違う。
私が逃げてるのは、
この “現実” から。
「じゃあ、意味ないじゃん……っ」
足が、止まる。
廊下の冷んやりとした感触が足元から直に伝わってきて、私の体を、頭を、冷やしていく。
走ったって。
逃げたって。
遠くへはいけない。
私は逃げられない。
「やだよ、智……っ」
信じたくないよ、智。
夢なんかじゃなかったなんて。
本当はどこかでわかってたけど。
でもそれでも、
信じたくなかったんだよ。
信じられなかったんだよ。
『昨日の夕方、智くんが目の前で事故にあって、あなたは気を失ったの』
そんな、現実。



