「あのね、千沙。 よく聞いて?」
「っ、なに……」
耐えられない。いやだ。
今すぐにでも逃げ出したい。
体が、脳が。
私の全部が「聞いてはいけない」と赤信号を教えてくれている。
すうっとお母さんの唇が遠慮気味にゆっくりゆっくりと動いて、
私に告げる。
「ーーっ」
言葉を、失う。
頭のなかが空っぽになって。
目の前が真っ白になって。
諭すように時間をかけて告げられたそれに、もう遅いと知っていながら私は耳を塞いだ。
「う、そ……そんなの、だって……っ」
「嘘じゃない、本当よ千沙。 ……よく、思い出して」
「やめて、嘘だ……!」
「千沙、信じたくないのはわかるわ。 でも、」
「やめてってばっ‼」
伸びてきたお母さんの手を払って、真っ白なベッドから飛び降りた。
「藤江さん、落ち着いて……」
「触らないでっ‼」
さっき初めて会ったばかりの看護師さんを跳ね除けて、私は白に囲まれた空間から裸足のまま逃げ出した。
「千沙っ!」
私を呼ぶお母さんの声なんて、もう知らない。