「……智」



名前を呼べば、瞼が開いて私の視線と彼の視線がぶつかる。


ゆっくりとイヤホンを耳から外す彼の仕草は、なんだか色っぽい。



「……ごめん、遅くなった」


「ああ、別に気にしてない」



私が小さく言うと、彼は素っ気なく答えてすぐに外へ出てしまった。


私は上靴を急いで履き替えてから、彼の背中を追いかける。



「…………」


「…………」



お互いに無言の帰り道。



彼は目の前にいるのに。


歩いていても、直ぐに追いつくはずの距離なのに。



智が……遠いよ。



笑いあっていたはずの帰り道。

周りの雑音しか響かなくなったのは、いつから?



私に合わせてくれていたはずの歩幅。

こうやって、彼の背中を見ながら歩くようになったのはいつから?



彼の夕日に染まる背中がとても虚しく見えた。




ねえ、智……。

あなたは、私のことをまだ好きでいてくれていますか?



……私はね。

あなたのこと、まだ大好きなんだよ。


ずっとずっと、私の気持ちは……



「……っ」



遠く離れた背中に、なんだか泣きそうになって、目を伏せたそのときだった。