「…………」
「…………」
無言で歩く廊下。
もう授業がはじまるからか、私たち以外の人は誰もいなくて。
きゅっきゅっ、と上履きの擦れる音と、遠く離れて行く喧騒(けんそう)。
窓から射し込んだあたたかな光が、私の手をひく佐伯くんの背中をキラキラと優しく、輝かせている。
……なんだか、現実から切り取られた世界にいるみたいだ。
タンタン、タン。
階段まで来ると、さっきまで遠くで聞こえていたものさえも全て無くなって。
踊り場に差し掛かったとき。
“キーンコーン、カーンコーン” と、授業のはじまりを告げるチャイムが、静かな空間に鳴り響いた。
ピタリと、目の前を歩いていた佐伯くんが立ち止まる。
そして、ゆっくりと私を振り返って。
何を言うわけでもなく、ただ、ぽんぽん、と俯く私の頭を優しく撫でた。
「……っ」



