「長年の付き合いだからか、お互い全然異性としてなんて意識してなかったの。
本当に仲のいい、ただの “友達” だったよ」
……はは。
なに言ってんの、私。
よくそんなさらりと嘘をつけるよ。
『千沙はわかりやすいよね』なんて、智に笑われたあの頃の私は……いったい、どこへ消えてしまったんだろう。
ほら、『わかりやすい』と言っていたはずの彼だって今はもう私の嘘を信じきっている。
「そっか、うわ……なんかごめん?」
次こそ本当に顔を赤くした智が、顔を手で覆うようにして言う。
腕もケガをしているから、なかなか上手く曲げられないみたいだけど。
「いいよ、覚えてないんだから仕方ないじゃん」
「やーでも恥ずかしい」
「はは、私と佐伯くんが付き合うなんて……天と地がひっくり返ってもありえない」
「まじか……」
「まじまじ」
ははは、とうなだれる智を笑いながらも、内心は全然笑えてなんかなかった。
笑えるはずがなかった。



