「親とか他の友達とか、ぜんぶ覚えてるからさ……なんか記憶を失ってるって言われても信じきれないっていうか……」
……なんだ、そういうことか。
確かにそれって、すぐには信じられないよね。
だって今の自分には、これが “今まで通り” の世界なんだから。
欠けているものなんてないと思っていたんだから。
それなのに突然、『あなたの世界で欠けているものがあります』なんて言われても困惑するだけだよね……。
「それに……」
「ん?」
ぼそっとつぶやいた智に、私は首をかしげる。
ほんのりだけど、なんか顔が赤いような……? 気のせい?
「俺、中学からそんな親しい女友達とかいないんだけど……藤江さんとは中学の頃からけっこう仲良くしてもらってたんでしょ?」
「え、まあ……うん」
「それって、なにもなかったの?……俺たち」
「え」
確かな言葉にして言われたわけじゃない。 すごく遠回しな言葉。
……だけど、それがどういう意味かわからないほど、私はもうウブじゃない。



