言っていて情けなくなる。


智とはなにかあるどころか、無さすぎるほどになにもないし。

バスケ部での出来事なんて、高校生になってからは一度も聞いたことがない。



……はは。 そりゃあ、忘れられてしまっても仕方がないよ。

文句のひとつだって言えやしない。



智の心が離れていってしまったのだって、きっと私が原因だったんだよね。



きっと智はこんな私が負担だったんだね。

早く、捨ててしまいたかったんだね。



“彼女” だなんて、肩書きだけだった。




「……ごめんなさい、千沙ちゃん。
やっぱり、智の記憶を取り戻させるようなことは許可できない。
智の、母親として」



あたたかいものが私の頬を、一粒、また一粒と流れ落ちていく。



「智に関わらないでなんて言わないわ。
ただ、また一から関係を作りなおしていってほしいの。
もう、智が失った記憶はつらいだけのものだろうから、忘れさせてあげてほしいの……」


「また、一から……」



うわ言のように呟いた私に、智のお母さんは小さく頷いてみせて。




「お願い、千沙ちゃん」



そして、そっと頭を下げた。