「なんだ……」
真波先輩が小さくつぶやく。
「なんですか?」
「ちぃちゃん思ったより全然いつも通りに見えたから、彼氏が事故っても特に何も思ってないのかと……」
「ふざけんのも大概にしてくださいよ?
真波先輩、いったい私を何だと思ってるんですか」
失礼にもほどがあるでしょうが。
智が倒れて、私が何も感じないわけがない。
「はは、ごめん、冗談じゃん」
「当たり前ですよ。
じゃ、私そろそろ行くんで」
「ああ、彼氏さんによろしく」
「……はい」
踵を返して、真波先輩に背を向け歩き出す。
あーあ、真波先輩のせいでずいぶんと時間を食ってしまった。
少し立ち止まって、小さくなった真波先輩の背中を振り返る。
……彼氏さんによろしく、ね。
昨日の帰り際、智のお母さんに「智が目を覚ましたらすぐに連絡するね」と言われた。
だけど連絡はまだきていない。
つまりはそういうことなんだろう。



