アンナは無表情な執事に連れられ、渡り廊下をゆっくりと、歩いた。


「ちなみにね」

「はい?」

「アレの名前はコリンヌとかいうらしいんだけど、お嬢様って呼んでもらいたいの。ご主人様はマリアと呼んでいるけど、それもだめ」

「お嬢様、ですね。わかりました。」


ドアの前にくると彼女は足を止め、少し困ったように眉間に皺をよせた。


「……あの、じゃあ、よろしくね」

「あ、はい」


細かい装飾を施された黒い鍵を渡し、足早に去っていく執事の背中をアンナは一瞥し、鍵穴に鍵の先端を差し込んだ。