猫を撫でる。



ベージュのトレンチコートの裾が大きく割れて、場違いに鮮やかな薄紫と白のストライプのスカートの裾が広がった。



それはちょうど、土下座をするような格好になった。


「あ…!」


美梨は思い出した。


あの時見た悪夢は、正しく正夢だった。


美梨の頬を打ち、髪を引っ張る女は
高部ではなく、貴子だ。


そして、美梨が泣きながら土下座して赦しを乞う相手は高部ではなく、
夫和臣だった。



ーー夢は美梨に警告していた。



「ごめんなさい、ごめんなさい…」



… 美梨は浮気は大罪だとわかっている。


大罪を犯した彼女は、和臣の足元で土下座をして泣きながら謝るしかなかった。


不潔なプラットホームの床に額を付けながら、美梨は十四年前の土のざらついた感触を思い出していた。


何事かと人が集まってくる。


ただでさえ人の多い新宿で、
三人の周りに人垣が出来ていた。


人々は美梨たちの修羅場を楽しんで口々に何かを言っていた。笑っていた。

指を差し、口笛を吹く者もいた。



美梨の猫は

「俺、帰るね」

と言うと、忍び足で去っていった。