「ヒロチーは?香水つけないの?」
「わ、わたし?」
「うん」
「…つけたこと、ないかなー…。私、メイクだって初心者だし、香水なんてまだ使いこなせないよ」
「俺、ヒロチーのメイク好きだよ」
「…えっ?」
突然真剣な目で視線を捕らえられて、思わず変な声を出してしまった。
「控えめで慣れてないとこも可愛いし、そそるよね」
「俺の周りはみんな、もう熟(こな)れちゃってるから」と付け足して、カケちゃんはニッコリ笑った。
……こんなの初めて言われたかも。
毎朝毎朝洗面台に立って、
プルプルと震える手でマスカラをつけてアイラインひいて、
流行りのオレンジチークを控えめに頬に塗って……
こんなの、自己満足だって分かってたけど、
きっと私…少しは褒められたかったんだ、誰かに。



