不意に香る、あの香水の匂いとか。
服ごしからでも感じられる彼の体温とか。
こんなに近くに寄られたら、誰だって思うはず。
もっと、もっと、って……。
「カケちゃん、あのさ……もう少し、距離をあけて……」
「やだ」
自分の欲が恐ろしくなって『距離をあけて』とお願いしようとしたのに、
テキストを見つめたままの彼は、すぐさまそれを遮った。
「でも、さすがにこれは近すぎじゃ……」
「いいじゃん、別に」
半分ふてくされたような感じで、投げやりにそう言うカケちゃん。
横顔を見据えると、彼は少し口を尖らせていた。
そして、またグイッと距離を縮める。
これ以上ないくらい、近くに。
「か、カケちゃん……!」
「しなしーとはあんなに近づけて……俺とはダメなの?」
今度は私の耳元。甘い声でそう囁いた。



