「映画を観てたときにいなくなったのも……そいつから電話が来て、

『階段から転んでケガをした。誰もいない、助けて』

って……呼ばれた時にお前を放って、そいつのとこに走った」




映画って、初デートのときの……。



そっか……やっぱり先輩が好きなのって、幼なじみの……。




「そのときに、改めて痛感した。俺はこいつが好きなんだって」


「……そっか」


「でもそれと同じくらいの不安があった。

だから、千紘が必要だったんだ」




私の必要性は、そこにあったんだ……。


紐解きをされるように、心の中でウズウズしていたものが薄れていく。



そして先輩は、静かに立ち上がってこちらに向いた。



「……取り乱してあんなことして、ほんとに悪かった」


「先輩……」


「千紘があそこで豹変しなければ……我を失ったままだった。

すぐに、演技だって気付いたけど」



優しく笑うその表情。


私はその笑顔に、落ちたんだ。




いまや遠い、昔の話。