「もう……理由なんてどうだっていいです」
自分とは思えない位に低い声が出た。
そして同時に、先輩のことであんなに必死だったころの自分が、
完全に消えてなくなった。
とにかく早く、ここから抜け出したい。
「お願いします。別れてください」
涙はもう、引いていた。
早く、早く、カケちゃんの笑った顔を見たい。
カケちゃんの声が聞きたい。
カケちゃんにギュッて抱きしめてほしい。
早く……早く……
パンッ!
「……っ」
「そいつと同じようにヤってやるよ」
先輩の言葉はただ耳に注ぎ込まれるだけ。
さっきと同じ右の頬を叩かれた痛みと、彼の爪が頬に掠った痛みのせいで、
頭の中にはなにも入ってこなかった。



