目の前には、ついこの前まで恋に落ちていた人の整った顔。
そしてその背後には、高い天井。
あのシャンデリアは、先輩の背中に遮られて見えなかった。
「なに……どうしたんですか?」
ギュッ……
いたっ……!
思わず目を瞑ってしまうほどに、彼が私の手首を掴む力は増していた。
脈が止まるんじゃないかと、本気で心配してしまうほどに……強く。
「離して……」
「何が不満なんだよ」
キリキリと締め付けられる痛みに耐えながら絞り出した言葉は、
先輩のドスの効いた声で遮られてしまった。
なにも、考えられない。
さっきまで、今日のシミュレーションしてきた言葉の数々を思い浮かべていたのに、
そんなの全部塗りつぶされてしまった。
完全に、頭の中は真っ白になった。
「いつからその男と関係を持った?」
……ねぇ、先輩。
私、こんな表情初めて見たよ。
こんな……目を剥き出しにした表情(かお)。



