……気付かないだろうなぁ。
はぁぁ…。
再びため息をついて校門をくぐる。
生徒玄関で傘をたたむと雫が腕に伝った。
「つめたっ…」
ブルッと一瞬だけ肩を震わせると、横から「ヒロチー、おはよ」と、今さっき聞いた声が届いた。
「あぁ、カケちゃん。おはよー」
下駄箱で靴を履き替える、嫌味なほどスタイルのいい男子に向かって挨拶を返した。
「その傘差してたのヒロチだったのか。つーか傘持ってきたの、偉いな」
「え、だって雨降ってるじゃん」
「雨って言っても小降りだろ?まぁ昨日の夜までは結構降ってたみたいだけど」
傘を傘立てに入れる私に感心する彼は、実はさっきまでアズちゃんという女の子と一緒に登校していた人物。
さっき素通りされたのは、私が傘を差していて顔が隠れていたかららしい。
大地翔(だいち かける)、通称カケちゃん。
まぁ、カケちゃんって呼ぶのは私ぐらいか。
逆をいえば、私のことを『ヒロチー』なんて呼ぶのもカケちゃんぐらい。



