______…。
「ひぃっ……」
緊張感に包まれる映画館の中で私は、赤の他人である隣の人の洋服をギュッと掴んでしまっていた。
う……ごめんなさいっ。
右隣の男の人に軽く頭をぺこりと下げた。
そう、実はもう例の映画が上映されていて、私は怖いシーンがあるたびに肩を震わせている。
まだ上映されてから30分くらいしか経ってないのに、こうして隣の人に頭を下げるのは3回目くらい……。
だったら左隣の先輩を頼りにすればいいじゃないか……
なんて、事はそう簡単にはいかない。
実は、中学の時の映画観賞会で私、隣の座席の男の子の腕に思わず抱きついてしまったことがある。
その映画は戦争もので、怖かったから。
そうしたら
「きもちわりぃな…っ!離せよ!」
なんて言われてしまって、それ以来その言葉は脳裏にこびりついて離れなくなった。
同じ過ちを繰り返さないためにも……嫌われないためにも、左隣の先輩には指一本触れないようにしているのである。



