「この湖、ちょっと変わっててな。こっち側とあっち側じゃ、温度が全然違うんだ」
「? 水温がですか」
「そう」
ラビはそう頷いて、進行方向を指差す。
ボートはいつの間にか、湖の真ん中近くまで来ていた。
「そこが境界だ」
「え?」
きょうかい、という言葉の意味を理解する前に、茅野はその光景を目の当たりにしていた。
湖が、分かれている。
確かにはっきりと、分かれていたのだ。
「あ……、色が違う!」
思わず大きな声を出した茅野に、ラビは向かい合ってボートを漕ぎながら、「あっち見てみろ」と目線で示して言った。
茅野は言われるがまま、右に顔を向ける。
小さな山から、川が流れ込んでいた。
それをまるで境界線のようにして、茅野の後ろと前方向では、まったく別の色をしているのだ。
よく見ると湖面に立つさざ波も、てんでばらばらの方向へ向かっている。
今の茅野の前後ということは、北と南、ということだ。
北側はさっき覗き込んだような深い青、南側は、鮮やかな青緑色をしていた。


