噎せかえるほどの鉄の匂いは、やがて甘美なる香りとなって僕を酔わせた。



目の前に広がる緋色の絨毯は、この世のどんなアカよりも神聖な色をしている。


無機質な塊となってしまった『あなた』の指が、右は【黒】の肩に、左は胸に、しっかりと食い込んでいたけれど…… 今はもう気にならなかった。



(どうだい? 僕の見立ては正しかっただろう? 緋…… とても良く似合っているよ)



(僕はね、本当に『あなた』を愛していたんだよ? その証に指輪を交換しよう……)



僕は冷たい棒のようになってしまった『あなた』の左手の薬指を咬みちぎった。血はすでに一滴も溢れないが、蒼白の衣の内は鮮やかな肉色を留めていた。

次いで僕は、自分の左手の薬指も咬みちぎった。

おびただしい血液が飛沫となって溢れだしたが、束の間に緩やかな流れとかわった。



(『あなた』に永遠の愛を誓います)



【黒】の胸の上に伸ばした『あなた』の手には、まだ温もりの残った僕の指をすげ、僕は赤い傷口に『あなた』の指をすげて床に寝転んだ。



僕の目の前で妖しく輝く緋色の指輪……

この世で最も美しく、最も穢れた『あなた』の指輪





やがて僕の肉体には、深い眠りが訪れた