太陽が昇りきった頃。僕は足音を忍ばせて『あなた』を訪ねた。

(ただいま。思いのほか仕事が早く終わってね……)


重たい寝室の扉を引き開けると、僕の不安が的中していたことを思い知らされてしまった。



僕の居ぬ間に、僕の知らない【黒】を貪る、僕の気がつかなかった淫乱な『あなた』……



「ち、違うの。これは違うの」

小刻みに震えながら『あなた』は懇願しはじめた。

(寒いのかい? ならばその人に、もっとくっついているといいよ)

僕は『あなた』の背中を押し付けて、【黒】の胸の上に倒れ込ませた。

「お、お願いです。話を聞いて下さい」

(聞いているよ?)

「そうではなくて、ちゃんと向き合ってお話させてほしいのです」

(このままでいいよ。だって…… 二人はしっかりと繋がっているじゃないか)
「そ、それは、押すのをやめて下さればすぐにだってはずれますから」

(そうだね…… こんな白濁に穢れているのだものね)
「あぁ!!」

ついつい手に力がこもってしまい、『あなた』は苦しそうに背中を反らせた。



(白の最大級が何色か、知っているかい?)

「い、いいえ……」

(それはね、黒なんだそうだ……)

「お、お願いです。許して下さい!」

(あぁあぁ。そんなに泣いてしまったら、せっかくの美しい顔が台無しだよ?)
「た、助けて。助けて下さい!」

(黒も確かに美しい…… だけど、僕にとって【黒】は、穢れの象徴なんだ)

「許して下さい! お願いですから!!」



指の先から、強張る心音と震えが伝わってくる。



(怯えなくていいよ? 僕が【黒】のかわりに、『あなた』に最も似合う色をプレゼントしてあげるね)





ぐしゅっ……!!





刃物が肉を貫く時の、鈍く脂っぽい音が世界を満たした。