何時の日のことだったか……

『あなた』から、僕の色ではない色を感じてしまったのは。



切っ掛けは、ほんの些細な出来事だった。



僕に触れながらチロチロと覗かせた可愛らしい舌だった。
その姿は艶らしく、僕の知らない妖艶な黒い『あなた』だった。



ある人が「最も美しい白の最大級の白さこそが黒である」と言っていたらしい……



これこそが磨きあげられた『あなた』の姿であると浮き立つ反面、底知れぬ不安が沸き立つのを感じ得ずにはいられなかった。



白…… それは何色にも染まってしまう曖昧の証。



僕は【黒】の存在を疑いはじめていた。



『あなた』が不満げな表情を浮かべた日。僕はすかさず語りかけた。

(明日、急用ができてしまったんだ……)

「急用?」

(そうなんだ。とても大事なご用事でね……)

「それは大変。ですが、お早いお戻りで?」

(いいや。泊まりになるとおっしゃっていたよ……)
「何時…… 何時ですの? お戻りは何時になりますの?」

(旅立ちは今晩。戻るのはどんなに早くても明後日の晩に)

「まぁ、そんなに?! 私、寂しくて死んでしまいそうですわ……」



切なげに俯く姿は意地らしく、良からぬ疑いを抱いた自身に恥じ入る思いがしたが、言葉通り、僕は晩に旅立った。



明後日の晩になると言いながら、明日には帰る訳だから……

『あなた』の驚く顔もまた、美しかろう。