「…表情は解りませんけど、昔から本当に美味しいと思ってましたよ。」





2人からの言葉攻めに耐えながら、先生は口元を手で覆い話し始める。





「学校で嫌なことがあると自然とあの喫茶店に足が向いてて…。あの頃は2人の顔を見て、このアップルパイを食べるのが唯一の楽しみだったんです。まぁ、少しずつ仕事が増えて通えなくなってしまったんですけど…。」





「いや、来なくなったのは仕事量だけが理由じゃないだろ?」





「ふふ、そうよねぇ。楽しみが増えたからでしょ?」





「………そうですね。2人の仰る通りです。」





口元を覆う手に少し力が入った様に見える。





これは先生が照れている時にする行動なんだけど…一体先生は何に照れているというのだろうか。




そして、先生の増えた楽しみとは一体何ぞや…気になる…。




「正直なところ、お前が急に店に来なくなった時は妻と心配してたんだ。何かあったんじゃないかって。でも、去年の夏頃かな…連れて行きたい人がいるって電話を貰って、それから伊緒ちゃんに会って凄く安心したのを覚えてる。やっと、翔也にも頼れる存在が出来たんだなってな。」





去年の夏頃って、スーパーに先生のマグカップを買いに行った、あの時のことだよね。





先生、そんな風に私のこと2人に話してくれていたんだ…。





「伊緒ちゃんと出会えたことは、本当に奇跡みたいなもんだぞ。大切にしなさい。まぁでも、翔也の相手が学校の生徒と聞いた時は相当驚いたけどな。あっはっは」