「伊緒、そのまま俺に掴まってろ。」





「え…っっわわっ?!!」




さっきまで背中に触れていたソファーが急に離れ、身体が宙に浮いている感じが私を襲う。





なんて力だろう、私をこんなにも簡単に持ち上げてしまうなんて…。





「先生、重くないんですか?」





「………別に。」





いつもと違う態度の先生。





掴まっているから顔は見れないけど、声や話し方がいつもとは全然違う。





これは紛れもない、真剣な時の先生の態度。





「もう、後戻りしないからな。何があっても止めないから覚悟しろよ。」





「……………はい。」





歩く衝撃が伝わる度、鼓動が少しずつ速く大きくなっていく。





先生が私を抱き上げて向かった先は想像通り寝室で、ゆっくりとベッドにおろしてくれた時には緊張しすぎて先生の顔が見れなくなっていた。





「伊緒、なんでこっち見ないんだよ。」





「……………っっ」





だって、だって、どうやって先生の顔を見ればいいのか解らないんだもん。





緊張して、恥ずかしくて、怖くて、でも嬉しくて。





ねぇ、私今どんな顔してる?





先生はどんな顔してるの?






「伊緒…なぁ、こっち向いて。」





「え?」





先生を見ないように横を向けていた顔の頬に、暖かい何かが触れた。