鞄を持つ手に少しだけ力が入る。
今までこんなことを進藤先生以外の人に話したことがなかったからな…なんか緊張してしまう。
「…結婚は、もう少し先にしようと思っています。片瀬が社会人としての生活に慣れて落ち着いたら…そしたら、僕の方から話しをしてみようかなと思っています。」
できることなら、結婚は今すぐにでもしたい。
俺もいい歳だし、伊緒に安心させてやりたい気持ちもある。
でも、結婚したせいで伊緒の行動範囲を今すぐ縮めてしまうことも、自由を奪ってしまうこともしたくない。
「…やっぱり、甲田先生は優くて、良い方ですね。」
「え…?」
「これは僕の想像ですけど、その結婚を今すぐにしない理由には、片瀬さんに沢山の成功や失敗の経験をさせてあげたいって意味があるんじゃないですか?」
「……すごいですね、冨田先生は。僕が考えていること何でも解ってしまうんですね。」
「ははは、そんなことはないですよ。ただそうじゃないかなっと思っただけです。」
自分の考えを全て理解してもらえるって、こんなにも安心することなんだな。
それに、一緒のような体験をして幸せそうにしている人を見るとどこか嬉しい気持ちになる。
長い廊下を渡り終え、職員玄関に差し掛かる。
ブ――……ブ――……ブ――……
二人とも靴を履き終え職員玄関に鍵を閉めようとしていると、冨田先生の携帯のバイブ音が鳴り響いた。

