オオカミとお姫様

「『何も知らないくせに』?あぁ、何も知らないさ。当たり前だろ。お前がそうやっていつまでも一人でため込んでたら、知りたくても知れるはずないだろうが」

「言って何の得になるんだよ!」

今までずっとこうしてきた。
誰にも本心を見せることはなかった。
本心を見せれば生きていけなくなると親父らに刷り込まれてきたから。
それだけじゃない。
人を信頼しなくなったのも本心を見せてはいけない、見せたくないと思っていたからだ。
自分を知られることが怖くなった。
知ってどうすんだって思ってた。

「…何もないよ。けど、悲しみを共有することができる。軽減することができる。喜びを共有することができる。2倍にできる。あの子は必死にあんたを知ろうとしてくれてたんだ。あんたと共有したかったんだ」

「なんだよ…それ」

詩音がそんな風に考えてただなんて…
相手を知ることの意味があっただなんて。
俺は何も知らなかった。
知ろうとも思ってなかった。

「仕方ないさ。あんたはこのことを知らずに生きてきたんだから。本心を悟られないように悟らないように生きてきたんだからな。…でも、」

先公は俺を抱きしめた。

「もうそんな風に全部隠さなくていい。誰かに弱みを見せることだって必要なんだ。辛いときは辛いって言っていいんだ」

「…くそっ…くそっ」

変態栄養士に抱きしめられて胸くそ悪いけど、少しホッとした。
自分が辛いことを受け止めてもらえるのってこんなにホッとできることなんだな…