御子柴 暦(みこしば こよみ)は、スッと息を呑む。
ああ素敵だ。
何度読んでも、素敵な物語だ。
彼女は両手に抱え持つ童話の絵本を、何度も愛撫する。
それは彼女の小さい頃からの宝物であり、
字が読めない程幼かった頃も、絵だけを楽しみ大切にしていた絵本だ。
…物語の主人公である戦士は、
国の為、多くの人間の為、そして輝かしい未来の為、
自ら愛したお姫様を、
魔女に化してしまったお姫様を救う為にも、
時を越え、苦しみや絶望を超え、戦う話だ。
しかし最後には、邪悪に犯された姫を刺し殺してしまう。
それは悲劇に見せかけた、希望に満ちた喜劇なんだと、
暦は理解している。
そして絵本の最後のページに描かれた戦士の横顔は、一筋の涙が伝っていた。
彼女は、そのシーンに幾度も感動してきた。