「───そもそも、そんなものをこれ見よがしに置いていくような女は乗せない」


部長は再びフロントガラスに視線を戻した。


今のは、間違っても落とし物するなという、あたしへの牽制かもしれない。


今夜この車にピアスを落として、次に乗るかもしれない別の女にプレッシャーを与えようとか。
なくしたピアスを探すのを口実に、もう一度車に乗せてもらおうとか。
そういうあたしのくだらない下心を見抜いて、予防線を張ったんじゃなかろうか。


だけど。
それならどうして、部長はいつもなんだかんだ言いつつ、あたしを気にかけてくれるのだろう。


さっき仮眠するから起こせと言った件にしても、あたしが仕事を終えるのを待つためだったわけだし。
今もこうして車でわざわざ家まで送ってくれている。


確かに外は雨で、あたしは傘を持っていなかったけれど。
いくら面倒見のいい上司でも、ただの部下なら会社の最寄りの駅まで送るので十分なはずだし、鞄から覗いてる折り畳み傘を貸してくれても良かったはずだ。