「───よりによって、何でこんな面倒臭い相手を…」


人の気も知らずすやすやと寝息を立てる部長を見つめながら、そう恨みがましくつぶやいたとき。
部長がゆっくりとその切れ長の目を開いた。


「!!」


あたしは慌てて飛び退く。
よろけそうになる体をピンヒールで支えながら、顔面が蒼白になる。


まさか今の聞かれた?
寝てる振りしてたわけじゃないわよね…?


そんな挙動不審なあたしを尻目に、部長は軽く伸びをしながら体を起こした。


「───仕事は終わったのか?」


どうやら部長は本当に寝ていたみたいだ。
一人言を聞かれていなかったことに安堵しながらあたしは頷く。


「…じゃあ、あたしはこれで」


これ以上この場に部長と一緒にいたら、平静でいられる自信がない。
変な気を起こす前に、早いとこ退散しなきゃ。
そう思ってそそくさとドアノブに手をかけたとき、背後から思いもよらない言葉をかけられた。