「───ちょっと櫻井さん、ここの入力が間違ってるんだけど」


隣の席の田邊さんが、最近買い替えた眼鏡のフレームをくいっと上げながら言った。


デザイン性のあるのにすればいいのに、なんで地味な顔をさらに地味に見せるようなものを選んだのだろう。
なんて他のことも気になりながら、あたしは突き出された書類を受け取る。


羅列した数字を見てすぐに分かる誤入力にあたしは唇を噛む。
疑いようのないケアレスミスだ。


田邊さんは普段から不機嫌だけど、ここまであからさまに敵対心を向けることはそうない。


だけどそれは買ったばかりの眼鏡のフレームが気に入らないわけではなく、入力する数字の桁を間違えたり、計算を間違えたり、朝から失敗続きのあたしのせいだ。